館長の美術旅行記X

3月23日 水曜 終日 アントワープ市内観光


 市内観光は徒歩でも可能だが,王立美術館はやや遠いので,トラムを利用したほうが良い.トラムと地下鉄Lijn(line)は共通チケットなので,ホテル横の地下鉄Astrid駅の出入口に向かう.ホームのチケット自販機で一日券を買うのに,dayticket netとdayticket stadの違いが分からない.うしろの女性にお尋ねしたら,stadは市内だけ,netは市近郊を含むのだとのこと.前者をEUR3で購入.ここでは市の中心行きと郊外行きでホームへの階段が違うので注意.あっ,日本でもそういうところはよくありますね.ホーム頭上の掲示板では,到着予定の列車が何駅前にいるのかを表示しており,行き先の表示ではない.
 3駅乗って,Groenplaatsで降り,ルーベンス立像のあるフルン広場に出て,徒歩数分の大聖堂(カテドラル)に向かう.

★★*  アントワープ・ノートルダム大聖堂
 開館時間 月〜金曜は午前10時〜午後5時,土曜は午前10時〜午後3時,日曜・祝日は午後1時〜午後4時まで.
 入場料 EUR2(12才以下無料)
 小さなギフトショップが入口横にある.無料パンフレットがあり,日本語はコピー版があります.

 Notre Dame = Our Lady = 聖母マリア
 ゴシック様式の大聖堂は,北塔の完成後,予算不足で南塔が建てられず,非対称.数年前訪問したときは改修中で埃っぽく,寒さも厳しく,暗い印象が残っていた.写真撮影も許可されていなかったと記憶していたが,改修が完了し内部も比較的明るく感じられ,今回はフラッシュまでOKだった.ただし,近くで絵の写真を撮っていた日本人ツアー客の方々がフラッシュをたいてうまくとれなそうにしていたので,「フラッシュは写りこむのでやめたほうがいいですよ」とお節介をしてしまった.
 中央のルーベンス「聖母被昇天」の架かる主祭壇の両側に有名なルーベンスの三連祭壇画.20世紀初めにはカーテンで覆われて,観覧料を払うとご開帳されていたというが,時代は変わって入館料という次第.向かって左が「十字架昇架」,右が「十字架降架」.アニメでは昇架が描かれていたが,降架はその数年後に完成したもので,こちらのほうが傑作とされる.学芸員はいたく感動していた.中央の絵だけでも4.2x3.1mの大作なので上部は間近で見ることはできないが,少し距離を置いてその大画面のダイナミズムを味わうものだろう.やや光の照込みがあるが,写真でもまずまず.9時半では,昇架の右翼裏面の聖女像に直射日光がさしていた.大丈夫かな.

 中央の祭壇の後方を取り巻くように回廊があり,4点目のルーベンス「キリストの復活」は,向かって右横脇の小祭壇にある.他は,マールテン・デ・フォスの作品や,翼廊・身廊交叉部ドームにC・シュッフトの天井画「聖母被昇天」など.偶像破壊の時代が去って後,バロックの偶像が新たに架けられたわけである.ステンドグラスは19世紀のものらしい.

 ここを出て,隣のマルクト広場へ.中央には19世紀に彫刻家ランボーが制作したブラボーの像がある.アントワープはAntwerpen(フランス語でAnvers),名前の由来は一説には,ローマ兵士ブラボーがスヘルデ川の巨人アンティゴンの手antを切り落として川に投げ(て退治し)たwerpenことから.

 そこから,牛乳市場「Melkmarkt」を通り,ブティク街を抜け,ルーベンスハイスへ. 途中を南に出ると★★*マイヤー・ファン・デン・ベルグ美術館がある.P.ブリューゲル「狂女フリート」(英語読みではグリート,映画「真珠の耳飾の少女」の主人公と同じ名前ではないか!)とオランダ絵画のコレクションに見るものがあったのだが,昨日美術館の梯子をさせてしまったので,言い出せず,近くを通り過ぎただけ,残念だが次回にしよう.ちなみにルーベンスハイスとは共通入場券EUR5である.
 なお,ルーベンスの眠る聖ヤコブ教会には「天使と聖人に崇拝される聖母」が安置されており,一度行ったことがあるが今回は訪問しなかった. ベルギーの美術館のサイト参照


★★ ルーベンスハイス(ルーベンスの家)美術館
 開館時間 毎日午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで).
 1/1・2,5/1,昇天節(復活祭後40日目の木曜),11/1・2,12/25・26は休館
 入場料 EUR6
屋内は写真撮影不可
 ルーベンスハイスは歩道の中央にガラス張りの入場券売り場とクローク・ミュージアムショップがあり,そこでチケットを買ってから入る.
 「ルーベンスの家・アントワープ」というタイトルの立派な小冊子がチケット売り場で,同題でA4サイズのパンフレットがショップの方でともに販売されており,内容は近いがA4の方がやや詳しい.一般向きにはどちらか一方で十分.

 入口をくぐると,すぐ中庭に続いていて,季節柄,花は少なかったが,壁面の彫像や植栽のレイアウトが,ルーベンスが家族とくつろいだ往時を偲ばせる.
 建物の入口に戻って,まず応接間,台所,次の間,食堂と続き,主に弟子や工房の作品が架けられ,奥がアートギャラリーらしいが入った覚えがなく,階段を上がるように促されて,すぐ上にあたるルーベンスが生涯を終えた寝室を見た後,階下に降りてアトリエと称するギャラリールームの数点の真筆の展示を見た.なかでは受胎告知のエスキースと完成作が際立っていた.食堂の壁に架けられていた「自画像」が重要だが,主な作品は近代の購入という.

 同館を出て,近くのThe Bistroで昼食.ネプチューンサラダには多量の小エビ.生ムール貝も載るが,旅先の食中りには注意とのこと.私は,Shrimp with Curry Soupを頼んだら殆どエビ入りカレーだった.
 そこからトラム8番に乗って8分ほどMuseum停留所で降りて,王立美術館へ.

パーク・プラザ・アストリッド・アントワープ   ホテルより市内の眺望        ホテルの朝食A 窓の向うに中央駅

地下鉄Lijnのチケット自販機 フルン広場のルーベンス立像,頭に.鳩が.左後方は大聖堂 アントワープ大聖堂

ルーベンス「十字架降架」,両翼(右は聖母の訪問,左は神殿奉献)とその背面

ルーベンス「十字架昇架」.  左翼背面「聖クリストフォルス」は依頼者の大聖堂射手ギルドの守護聖人,キリストを担う

2つの三連祭壇画を右方から,中央奥に入ると主祭壇 シュッフトによる天井画「聖母被昇天」 直射日光が当たっている

ルーベンス「聖母被昇天」主祭壇 その後方から   ルーベンス「キリストの復活」 M・デ・フォス「カナの婚礼」

ステンドグラスが美しい  ゴシックのアーチの下   ショップで売られていた日本語の絵葉書「ネロとパトラッシュ」!?

パトラッシュ?かわいい犬と飼い主のおじさん メルクマルクト,かつて牛乳が売られていた マルクト広場の市庁舎

手を投げるブラボーの像  ルーベンスハイス美術館         ルーベンスハイスの中庭にて

ルーベンスハイス近くのブラッセリーThe Bistro  左Shrimp with Curry Soup,右ネプチューンサラダ

アントワープ王立美術館      アムステルダム国立美術館特別展の垂幕 1階ロビー.奥がBrueghel&Co,2階が常設展

ファン・エイク「聖バルバラ」部分 メムリンク「奏楽天使に囲まれるキリスト」の修復風景

                         有名な15世紀仏のフーケ作「ムランの聖母子」 シャルルX世の側室がモデルとか

Q・マセイス「マグダラのマリア」同「キリスト哀悼」三連祭壇画(左:サロメと洗礼者ヨハネ・右:福音書記者ヨハネ)パティニール「エジプト逃避のある風景」

M・デ・フォスの三連祭壇画          同「聖母子を描く聖ルカ」    クレルク「パルナッソス」

M・デ・フォス「聖アントニウスの誘惑」 ルーベンス大作展示室,右端は磔刑「槍」 正面大作は「聖フランシスコの最後の聖体拝領」,奥の間にはヨルダーンスなど

*ルーベンス「マリアの教育」 同「磔刑」(ダイク作品が来日) *ホファールツとフランケン「エウロパの略奪」

S・ライスダールの風景画  J・ライスダールの風景画  ホッベマの風景画「水車」

F・ボル「コート家の肖像」          E・ネールの風俗画「訪問」 フレルの静謐な風俗画「Hospital Orderly」
アムステルダム国立美術館から

フランケンU世「チャールズX世の退位の寓意」 マンデル「スキピオの寛容」 P・ボール「アコンティウスの林檎を持つシディッペ」


ヒルトン,左下にテラスカフェ オペラ交差点を駅方面から望む.テニールスの像 帰路に顧みたアントワープ駅側面
ファン・エイク「泉の聖母」
★★* アントワープ王立美術館

 開館時間 火〜土曜は午前10時〜午後5時,日曜・祝日は午前10時〜午後6時まで.
 月曜と1月1・2日,5/1,昇天節,12/25は休館.
 入場料 常設展EUR6(最終水曜は無料)
   ここのチケットもデザインがいろいろ.
 ミュージアムショップはホール右奥,カフェテリアもあるが寄らなかった.
 明解なフロアーマップが上記サイト内にあります.

・Catalogus schilderkunst oude meesters (「古典絵画総覧」88年刊蘭語でやや古く写真は白黒) EUR12.5
・The Royal Museum of Fine Arts Antwerp (Ludion 90年刊,英語.現代までの代表作カラー選集) EUR24.7

 ここの1階左では,「ブリューゲルと仲間たち」という同館所蔵品による特別展示があり,最近そのオリジナリティが再評価されつつあるP・ブリューゲル二世の作品(10点ほどを所蔵)を中心に,その弟で美しい色彩と繊細な表現で新境地を開きビロードの〜とあだ名されるヤン・ブリューゲル一世らの作品が多数展示されていたが,残念ながら,偉大なピーテル一世の作品は所蔵されてはいない.
 1階右手にはアンソール,デルボー・マグリットら近代絵画部門がある.ゴッホの作品もあったようだが,まったく寄りませんでした.ごめんなさい.

 以前来たことがあるので写真を撮らないと公言していたが,2階に上がってからエイクの名品2点を見てまた写真を撮り始めた.北方ルネサンスの名品は15世紀ではほかにウェイデン,メムリンク(「奏楽天使に囲まれるキリスト」は修復中)ら,16世紀にはクウェンティンとヤンのマセイス父子,パティニールからブリューゲル工房やフリンメルらの風俗風景画,フローリス,同地出身のM・デ・フォス(10点)などの物語画,17世紀にはルーベンス(22点!)の劇的な祭壇画大作が圧巻で「三賢王の礼拝」「槍の一突き」,大作ではないが「聖トマスの不信」「三位一体」など,ヴァン・ダイク,ヨルダーンスに代表される彼の弟子達,テニールス,フランケンらのJ・ブリューゲル周辺の画家などが面白い.
 2001年に往時の伊勢丹美術館などで開催された「黄金期フランドル絵画の巨匠たち展」=本館の所蔵品展で,このとき出品されていたもの*も,P・ブリューゲル二世の「ネーデルラントの諺」など10点のほか,なかなか名品であったことが分かる.

 オランダ派については層が薄く,ハルスの肖像画が重要らしいが,それ以外,レンブラントの真筆もなく,レンブラント派での展示は下記のF・ボルの1点程度,風景画もまずまずといったところでJ・ライスダルの滝のある山岳風景は良かった.風俗画も少々だが,なかではフレルの風俗画が静謐な感動を覚え,これを見るにつけ,昨年アムステルダムでこの画家の佳作を二番手で買えなかったことが後悔された.

 幸か不幸か,アムステルダム国立美術館が改装中のため,同館の作品群の一部はオランダ・ベルギー・ドイツの10美術館に貸出中で,ここでも奥の三室では,特別展「スヘルデ川のアムス国美〜オランダ宝館からの傑作」と銘打って@マニエリスムA肖像画Bカラヴァジスムに焦点を当てた展示が04.10/9〜06.12/ 31の長期にわたり公開されている.作品群はアントワープの所蔵品も混在させて展示.
 @ではフランケンU世,ファン・ハーレム,ホルチウスの有名な「ロトとその娘達」,A・ブルマールト,ウテワール,マンデル(著書では有名だが油彩は30点ほどが知られているだけ)「スキピオの寛容」など.
 Aではテンペルやヘルストが,フランドル派ルーベンス,ヴァン・ダイク,C・デ・フォスらやオランダ派F・ボルらのアントワープ作品に加わる.
 Bではレンブラントの「ペテロの否認」が来ている.ほかにテル・ブリュッヘン,バブーレンら典型的なユトレヒト派カラヴァジェスキのほか,スウェールツなど.久しぶりにP・ボールの作品も見た.

 午後3時半に退出して,トラムでフルン広場に戻り,角のヒルトン・アントワープのテラスカフェでお茶の時間.それから,Yakさんご夫妻とお別れして,近くのノイハウスで,イースター(復活祭.春分後,最初の満月後の日曜日で,今年は4月11日)用の卵型チョコレートが売られており,職場への土産になったが,チョコは重いので最終日に買いましょうね.図録共々両手に持って,そこからホテルへとMeirメール通りをテクテク歩いて帰りました.途中にヴァン・ダイクの白い像→テニールスの灰色の立像が立っています.

 この日の夕食は,オペラハウス角の交差点から一区画目にあるイートインのできる惣菜チェーン店EXKiでミネストローネやグリーンスープが売られていてなかなかおいしかった.グルメ旅行のはずが...昔の一人旅の名残か?

翌日につづく