本作品も色彩遠近法による山岳風景で,人物や犬の描写はテニールスに典型的であり,岩肌や草木の描き方,遠景の処理なども特徴的である.例えば,「山岳風景」(画布110x117cm,
1650年頃;プラハ国立美術館蔵)と比較されたい.惜しむらくは,左の遠景や右の岩などが単調でかき込みが少ない点であるが,反面,十字架と人物群が浮かび上がってくるのだろう.当時,十字架は信仰の対象であるとともに,旅の道標でもあったという.犬を連れた四人の人物たちは行き先について言い争っているのかよくわからないが,それを神が見下ろしているような象徴的な構図である.ただし,記録時期不明の本作品の古い印刷資料には十字架が認められないものがあることから,この部分は後世の加筆かもしれない.
テニールスの署名は字体がしばしば右倒傾向であることから,本作品の署名は後入れかも知れないが,テニールス研究者のクリンゲは,鑑定書で,本作品現物を見て署名も確認し,1630年代後半のアントウェルペンでの創作活動期に描かれた真筆としている.