歴史画は17世紀初めのオランダでも,もっとも重要で高価なジャンルの絵画であった.神話,旧約・新約聖書,古代史,その他の物語を題材にして,初期には先行したマニエリズムやカラヴァジェスキ,フランドルのカトリック的宗教画の影響を受けるが,レンブラント派によって独自の様式が発展してゆく.

 旧約聖書は律法の書(世界の起源と主の民が約束の地へ向かう物語:創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記),歴史の書(主の民は約束の地を得ながら戒めを破って亡国の民となるが,主は救世主の出現を約束するという物語:ヨシュア記・士師記・ルツ記・サムエル記上下・列王紀上下・歴代志上下・エズラ記・ネヘミヤ記・エステル記)と詩書(5冊)・預言書(大5・小12冊)から成っている.

 天地創造に始まり,

<アダムと(誘惑する)エヴァ>

 大洪水とノア,バベルの塔の話を経て,世界に民族が広がってゆくが,主が選ばれたのは信心深いアブラハムの一族であった(歴史的年代の検証推定はこの頃まで遡れるとされる).

<リベカとイサク>

 イサクとリベカの次男ヤコブは長男エサウから長子権を得,苦難の末,主からも認められてイスラエル(主の守る人)と名乗ることを許される.ヤコブの子の一人ヨゼフは兄弟に疎まれ,エジプトに連行されるが,エジプト王(ファラオ;パロ)の夢を解き明かして飢饉の到来を予知し,王に重用され,兄弟を許してヤコブ共々家族をエジプトに迎えた.ヤコブは死後,カナンの地に葬られたが,彼の子供からイスラエル12部族が成立した.
 しかし,ファラオが代わり,ヨゼフの功績も忘れ去られると,エジプトに満ち満ちたイスラエルの民はエジプト人の奴隷として苦役に就かされ,また,出生した男子はナイル川に投げ込まれた.

<ファラオの王冠を踏むモーゼ>

 その後,モーゼは燃える柴に主の啓示を受けて,イスラエルの民をエジプトから連れ出し,紅海を渡って,苦難を重ねつつ約束の地カナンへと導びこうとする.

<岩を打って水を出すモーゼ>

 モーゼは十戒を授かるも,カナンを目前にして絶命し,遺志を継いだ後継者ヨシュアはカナンを奪回する.しかし,執拗なペリシテ人たちとの戦いには,主に選ばれた勇敢な指導者たる士師が必要だった.ギデオン,エフタに続き,

<マノアの燔祭>

サムソンやサムエルが輩出した.サムエルは,イスラエル最初の王をサウルとしたが,サウルは主に従わなかったため,サムエルはダウ゛ィデを選んだ.ダウ゛ィデはペリシテ軍の巨人ゴリアテを打ち負かし,民に慕われてイスラエルの王位に就き,国の基礎を築いた.

<ダヴィデとバテシバ>
<ダヴィデ王の瞑想>
<ソロモンの偶像崇拝>

 2部族の属す南のユダ王国をソロモンの子レハブアムが継いだが,北の10部族はイスラエル王国としてソロモンの家臣のヤロブアムを王に迎えた.しかし,ヤロブアムも偶像を崇拝し,幾多の王が出た後,悪王アハブの治世に,主は預言者エリヤを使わされたが,王は戒めを聞かず戦死した.エリヤはエリシャを後継者とした.

<エリシャと(死んだ息子の蘇生を懇願する)シュネムの女>

 エリシャの死後,イスラエル王国はアッシリアに滅ぼされ滅亡した.南のユダ王国には預言者イザヤ,エレミヤが出て国を守ろうとするが,暗愚な王のもとで同王国も遂にバビロニアによって滅亡する運命にあった.バビロンに捕囚されたユダ王国の民の中に預言者エゼキエル,ダニエルがいたことは主の祝福であった.70年の捕囚の後,イスラエルの民は民族の復興に向けてカナンの地に戻る.

 エルサレム陥落後600年を経て,救世主の到来を記した新約聖書へと物語は語り継がれる.