ここにレンブラント派の様式で描かれているのは,やや斜に向いて,見るともなくぼんやりと視線をこちらに投げかけ,右手を懐に入れて,左手で椅子の肘をつかみながら腰を落としている老人像である.ズモウスキも指摘しているように,老人がユダヤ帽をつけていることと壇上に王笏と冠が置かれていることからダヴィデ王とわかる.
バテシバを妻にした後,主の見咎めからダヴィデに不幸が重なる.この作品の主題は,祭壇の前で自省の表情を浮かべながら瞑想する老いたダヴィデ王を描いたものである.その後,王位はバテシバとの子ソロモンへと受け継がれてゆく.
本作品は,豊かなひげを蓄えた老人の容貌がサロモン・コニンクのモデルに似ていたことから,かつてはコニンク作であると考えられたこともあるが,履物の仕上げなどはコニンクの手とは異なっていよう.
ズモウスキは,アムステルダム国立美術館やライプチヒ造形美術博物館にある,アブラハム・ファン・ダイクの坐る老婆を描いた作品との共通性を指摘している.
レンブラントの描いた瞑想する老人を主題とした作品には,トローニー(半身の習作)を除き,以下のようなものがある.
「机に向かう使徒パウロ」(板47x39cm;1630年頃;ニュルンベルク,国立美術館蔵)
「エルサレム陥落を嘆く預言者エレミヤ」(板58x47cm;1630年;アムステルダム国立美術館蔵)